公益財団法人
吉田記念
テニス研修センター

三井不動産全日本選抜車いすテニスマスターズ/特別対談

 

長年にわたり、街づくりを通じてさまざまな社会問題の解決に取り組んでいる三井不動産さまは、2016年から「BE THE CHANGE」というスローガンを掲げ、スポーツの力を活用した街づくりを進めています。2016年の第26回大会から、全日本選抜車いすテニスマスターズのメインスポンサーとしてご支援をいただいており、今年で8年目になります。この度、大会新会長にご就任を頂いた元プロテニスプレーヤーの沢松奈生子さまと、三井不動産の広報部長である平原秀人さまに、街づくりとスポーツの力についてご対談頂きました。

インタビュアー:公益財団法人吉田記念テニス研修センター 所長/髙橋   取材日:2023.12.10

 


 

三井不動産株式会社 平原秀人さま(以降:平原):当社は2015年に東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会のゴールドパートナーになったことがきっかけで、スポーツへの協賛・応援を本格的に始めました。本大会をサポートさせていただくようになった理由は、障がい者スポーツの支援が、私たちが大切にしている「共生・共存」「多様な価値観の連繋」「持続可能な社会の実現」といった三井不動産の理念を表す企業ロゴマーク「&」の理念とも重なる点と、当社が街づくりをしている柏の葉エリアで大会が開催されているという点です。

大会会長 沢松奈生子さま:私も、第1回大会の時はまだ、私自身が現役のプロテニスプレーヤーでした。ちょうど12月というのはオフの期間でもありましたので、応援に毎年、伺っておりました。そのころと比べますと、選手の打つボールのスピード、回転量の多さ、作戦面の幅の広さなどが、この35年ぐらいで考えられない次元に達していて、おそらく、車いすに乗ってテニスをなさる方の肉体的限界まできているのではないかと思います。スピードもパワーも、皆さま体全部をフルに使って、頭も使って、プレーをされているなと思います。とにかく、非常に速いスピードで成長していて、毎年お邪魔する度に大変驚かされております。おかげさまで、この大会を通して世界の舞台に羽ばたいてくれる選手も多く出ております。特に、東京でパラリンピックがあったときは無観客ではありましたが、それでも国枝さんが悲願の金メダルを取られました。私どもとしましても、日本の車いすテニスが世界の車いすテニスをけん引するのだというレベルまできているということを肌で感じております。引き続き、ご支援を賜れれば、選手の皆さまにとっても大変心強いです。車いすテニスというものが、1つの競技としてますます発展していくものと確信しております。

平原さま

平原:新型コロナウイルス禍以降、あらためて認識したのが、リアルの力でした。新型コロナウイルス禍ではなかなか人と人とが接触するのが難しかった状況にありましたが、そういった期間を経て、今回の大会ももちろんそうですが、スポーツのようなリアルの体験の素晴らしさが改めて際立ってきたと実感します。私たちは街づくりをしている企業として、行きたくなる、集まりたくなる「ミクストユース」の街をつくるうえで、スポーツがもつ力は非常に強力な要素だと考えています。まず、ハード面では商業施設などの中でスポーツができる場を提供しています。例えば、「MIYASHITA PARK」(東京都渋谷区)の屋上公園にはスケート場やボルダリングウォールがありますし、「三井ショッピングパーク ららぽーと福岡」(福岡県福岡市)では200m陸上トラックなどを含むスポーツパークを、「三井ショッピングパーク ららぽーと堺」(大阪府堺市)では本格的なスポーツ・エンターテインメントイベントが実施可能な屋内型スタジアムコートを設けています。また、ソフト面ではアスリートと触れ合うイベントやコミュニティを提供しています。例えば、子どもたちが一流アスリートの方から1DAYのレッスンを受けられる「三井不動産スポーツアカデミー」などのイベントを当社商業施設内や街中で開催しています。買い物などで街に来た子どもたちがアスリートを見て憧れをいだき、いつかメダリストになりたいと思うきっかけを提供できればうれしいですね。その他にも、日本橋室町三井タワー(東京都中央区)というオフィスビルの屋外にある広場では、昨年初めてオフィスワーカーが参加できる3x3(3人制バスケットボール)の大会を開催しました。そうした取り組みにより、コミュニティへのつながりを生むきっかけを提供しています。

2021年には東京ドーム社もグループ会社化していますし、2024年春には、約1万人が収容できる当社初となる大型多目的アリーナ事業「LaLa arena TOKYO-BAY」(千葉県船橋市)の開業も控えており、今後もスポーツの力を活用した街づくりを推進していきます。

沢松:今、平原さんのお話を伺い、思い出しました。私は小さいときにヨーロッパのドイツに住んでいましたが、向こうでは、人々の生活の中にスポーツというものが溶け込んでいます。それが文化の1つになっているということを、子どものころに体験していました。皆さまが普段行く商業施設や、普段立ち寄る生活の場でスポーツを実際に見ることができる、触れることができるということが、皆さまにスポーツや競技について知っていただくきっかけに一番なりやすいと思います。今のお話を伺い、そういった環境を作っていただいているということが、とてもありがたいと思いながら聞いていました。おそらく、本日平原さんもご覧になって、これまでテレビで見て想像していた車いすテニスとは迫力が全然違ったと思います。ららぽーとなどの商業施設も同じだと思います。そこで「こんな今まで見たことがないスポーツがあるのだ」ということを感じ、自分の目でこと見ることで興味を持ち、また応援したり、自分がやってみようというきっかけに必ずなると思います。

沢松さま

沢松:これまで、素晴らしい成績の数々を残したたくさんの選手が出ています。例えば齋田選手です。私は、国枝選手という選手が出てきたのは、この齋田選手がいたからだと思います。齋田選手は、30回連続でずっとこの大会に出場されています。国枝選手が小学生のときに、齋田選手がこの大会で優勝されているのを見ていて、いつかこの選手に勝ちたいという思いで、追い付け追い越せで励んできました。そして、国枝選手が強くなって、二人の名勝負がこの大会の決勝で何度も行われました。

平原:素晴らしいです。

沢松:あるとき、齋田選手に国枝選手が勝てたのです。そこから一気に世界に向けて羽ばたいていったのを、私も見ておりました。その齋田選手が、過去パラリンピックに6回出場しています。先ほど申し上げたとおり、今大会は30回連続で出場しています。先日のレセプションでは、国枝選手から、「奈生子さん、これギネスじゃないですか。齋田選手、これ申請したほうがいいですよ」と言われ、少し圧がかかりました。この大会で、もしかするとギネス記録が生まれるかもということで、こちらも動きたいと思っています。もちろん、国枝選手は現役期間中長らく世界ランキング1位を守っていましたし、言うまでもなくパラリンピックのシングルス・ダブルスともに金メダリストです。ダブルスは、齋田選手と組んで金メダルも取られています。上地結衣選手も、今、世界ランク2位です。

グランドスラムも多く獲得しております。実は、上地選手がこの大会に初めて出たのが12歳、13歳、そのぐらいでした。なんと今回も13歳の女子選手が出てくれたのですが、その選手に対しても、国枝選手が「結衣ちゃんは13歳で初めて出て、次の年にも優勝してたよ」と、プレッシャーをかけております。でも、そうやって、齋田選手から国枝選手、そして、そのあと上地選手が生まれ、またその次へ、みんながあとにつなげていこうとしています。この大会から、パラリンピックで金メダルを取れる選手をどんどん育てていきたいという熱い思いがあります。私も、大会会長という役職に就いて大変ありがたいと思っておりますが、大会で活躍した選手が今後もこの大会を手伝ってくださるのではないかと楽しみにしています。

そして、今年は小田凱人選手が全仏オープンで最年少優勝いたしました。現在、世界ランキング1位ですが、そのあと、全英オープンも優勝しました。全米オープンは、本日シングルスで準優勝だった眞田選手が、自身初のグランドスラム、ダブルスのタイトルを、フランスのウデ選手と組んで獲得されました。おそらく大きな自信になったのではないかと思われます。いずれにしても、シングルス・ダブルスともに、グランドスラム出場選手のほとんどがこの大会の卒業生で、この大会のおかげで日本のパラリンピックと車いすテニスは成り立っているような状況でございます。

平原:スポーツには「する」「観る」「支える」などの活動を通じて、暮らす人々や働く人々、憩う人々の心身を健康にするだけでなく、新しいつながりを生みだし、コミュニティを活性化する力があると考えており、私たちが魅力的な街づくりを進める上で、スポーツは重要な要素と捉えています。

少し話が変わりますが、私たちが街づくりをしている柏の葉スマートシティ(千葉県柏市)では、未来のため、世界のために、日本が託された課題の解決に向けて、街づくりのテーマを3つ掲げています。1つ目は日本の新しい活力となる成長分野を育む「新産業創造」、2つ目がすべての世代が健やかに、安心して暮らせる「健康長寿」、そして3つ目がこの地球にどこまでもやさしい「環境共生」です。柏の葉スマートシティでは、この3つのテーマの最適解を求め、ハードとソフト、そしてここに集う人のハートまで、すべてを叶えることで、「世界の未来像」をつくっていきたいと考えています。こういった活動の中にスポーツがもつ力を取り入れることで、よりコミュニティを活性化させることができると考えています。

今後もリアルの象徴的な要素であるスポーツ・エンターテインメントを生かして、街づくりを行っていきたいと考えています。「LaLa arena TOKYO-BAY」が開業する千葉・南船橋エリアは、1981年に第1号ららぽーと物件である「三井ショッピングパーク ららぽーとTOKYO-BAY」が誕生した地でもあります。40年以上にわたる歴史の中で、商業施設以外にも物流施設や住宅なども手掛けてきたエリアです。2024年春のアリーナの開業に伴い、ららぽーとTOKYO-BAYをはじめとした周辺施設とも連携しながら、スポーツを通じた街づくりをさらに進めてまいります。

また、これから計画しているのは、神宮外苑地区における街づくりです。

沢松:神宮外苑も三井不動産さんなのですか。

平原:当社や明治神宮さんなど4事業者で街づくりを進めています。

沢松:あそこもいろいろなスポーツ施設がありますよね。

平原:はい。神宮球場や秩父宮ラグビー場があり、まさに、スポーツの聖地と言われているところです。ただ、神宮球場に至っては完成から97年が経っています。

沢松:かなり経っていますね。

平原:ラグビー場も築76年です。そういった意味では、バリアフリーなどの面で非常に課題がありますね。いろいろな人が快適にバリアフリーでスポーツを楽しめるような場所にしたいという思いも込めて、神宮外苑でもミクストユースの街づくりを心掛けています。また、現在の神宮外苑には広場空間があまりありませんので、フリーで入れる広場をつくる構想もあります。あとは災害時です。30年以内に首都直下地震が発生する確率は7割と言われています。広域避難場所の提供などの対策も災害が起こってからでは遅いので、災害につよい街づくりも進めていきたいと思っています。神宮外苑の再整備についてはいろいろ話題になっていますが、われわれとしては、皆さまに理解していただけるように、引き続き丁寧な情報発信に努めてまいります。

沢松:私、ごく近所ですので、大変楽しみにしています。「どうなるのだろう、この辺りは」と思っています。

平原:誤解されている方も多いのですが、4列のいちょう並木は残します。

沢松:先日までライトアップを見ておりました。あれがなくなると思ってらっしゃる方も結構いらっしゃるようですね。ちゃんと残すものは残すということを発信していらっしゃるので、私は個人的には大変楽しみにしています。

平原:ありがとうございます。

沢松:非常に広い視野で考えますと、本日の閉会式での眞田選手のコメントですね。彼自身、今回リハビリセンターを訪問して自分自身も力をもらい、スポーツの力というものを感じたと言ってくれました。テニスという広いくくりで考えますと、テニスという競技は、本当にダイバーシティの先端をいっているようなスポーツです。性別も、障がいの有無も、年齢も問わず、一緒に楽しめるスポーツです。今回初めて行ったニューミックス(車いす使用者と健常者がパートナーを組むダブルス)のイベントマッチも、下は小学生の方から参加していただきました。TTCの方に、「会員の方で可能であれば、来年は最年長の会員の方にぜひご参加いただきたい」というようなことを申し上げたのですが、それは、まさにこのスポーツが性別・障がいの有無・年齢も全て問わず、コートの中で小学生からもしかしたら90代の方までが一緒に楽しめるスポーツであるということをできるだけ発信していきたいとも思っているからです。眞田選手ご自身がそういった活動をしていて、自分が力をもらったと言ってくれました。おそらく、多くの競技者・アスリートたちが、そういった活動を自分で行うことによって、彼ら自身の力として戻ってくるというような効果もあるのではないかと思います。そのような活動の面でも、まだまだたくさんできることがあると思っています。今の時代に合った、そして、選手の皆さまがより、自分たちは社会に必要な存在なのだと意識していただけるような競技でありたい、そのような大会でありたいと思っております。

平原:本当に素晴らしい取り組みです。

沢松:私はアイデアを申し上げただけで、TTCのスタッフの皆さまのご尽力のお陰だと思います。

平原:このような大会を観戦させていただいて、どうもありがとうございました。

沢松:ありがとうございました。

平原:私は、初めてリアルな場で観戦しましたが、障がいをお持ちだと感じさせないくらい、力強く競技に打ち込んでいる姿に本当に感動しました。試合会場の近くで見学させていただいて、選手と一体になれるように感じましたし、本当に素晴らしいスポーツ、大会の取り組みでいらっしゃるなと思いました。やはり、過去の大会の積み重ねの結果、国枝選手のような世界で活躍できる方が出てきて、また、それを目標に頑張る人がでてくることで、どんどんレベルが高くなっているのだと実感しました。性別も、障がいの有無も、年齢も問わず、ダイバーシティな環境がスポーツを通じて日常の生活での触れ合いに広がっていけばいいと思います。本日はありがとうございました。

沢松:平原さんは、完全に車いすテニス観戦の上級者ですね。なぜかと申し上げると、私も実は最初のころは、障がいをお持ちの方だからという目で見ていたわけです。ですから、このボールが取れなくてもしょうがない、このぐらい速いボールが打てなくてもしょうがないという、本当に言い方は悪いのですが、どこか上から目線な見方をしていた時期がありました。やはり、障害を持ってらっしゃるということに対して、気の毒だなと思って、何か自分がしなきゃという、変に肩に力が入ったような接し方をしていたのですが、今まさに平原さんがおっしゃったとおり、私自身も、あるときから、障がい者スポーツというふうに見られなくなっているのです。純粋に一アスリートとして見ていて、この競技がいかに素晴らしいか、そしてその競技力がいかに高いか、今日見ていても、正直今の私のサービスよりも明らかに、圧倒的に速いサービスを打っています。何もかもかなわない状況まで今きていて、その状況になったときに、いつしか、ただただ凄いという、見させていただいているという気持ちになったことがありました。今日初めてご覧になって、それを感じてくださったというのは、もちろん戦った選手たちのレベルの高さというものもあると思うのですが、そういう目で障がい者スポーツをご覧いただくというのが、たぶん選手にとっても一番うれしいことなんじゃないかと思って、今すごく感動いたしました。

平原:とんでもございません。

沢松:そういった目で見ていただける方に一人でも多く来ていただきたいですし、たぶん、今回も非常にお客さまが多かったのは、皆さま障がい者スポーツだとは思っていなくて、それだけの素晴らしいレベルの高いテニスを見たいという思いで来てくださっている方ばかりじゃないかと思います。要は、車いすテニスがそのレベルまで今年きているなというふうに感じたことが、最近の車いすテニスのマスターズの感想です。

髙橋:本日は素晴らしいお話をありがとうございました。

平原、沢松:ありがとうございました。

平原さま、沢松さま

タイムテーブル